アメリカで最も権威ある医学賞とされる「ラスカー賞」のことしの受賞者に、新型コロナウイルスワクチンの開発で大きな貢献をしたドイツのバイオ企業、ビオンテックのカタリン・カリコ氏ら2人が選ばれました。
本日はm-RNAワクチンの実用化に大きく寄与したカタリン・カリコ氏(Katalin Karikó)と
ドリュー・ワイスマン氏(Drew Weissman)の研究内容に焦点を当て書いていきます。
ニューヨークのラスカー財団は2021年9月24日、ラスカー賞の臨床分野の受賞者にハンガリー出身で、ドイツのバイオ企業ビオンテックの上級副社長を務めるカタリン・カリコ氏とアメリカ、ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン氏の2人を選んだと発表しました。
カリコ氏らは人工的に作り出した遺伝物質のmRNAをヒトの体内で異物と認識されないようにして機能させる方法を発見し、全く新しいタイプのワクチン「mRNAワクチン」の開発に大きく貢献しました。
これによってドイツのバイオ企業ビオンテックと製薬大手ファイザーが、有効性の高い新型コロナウイルスワクチンを短期間のうちに作り出すことが可能になったことなどが評価されました。
ラスカー賞は受賞した研究者から多くのノーベル賞の受賞者が出ていることでも知られ、カリコ氏らもノーベル賞の候補として注目を集めています。
2021年のノーベル医学・生理学賞は、日本時間の10月4日(月)午後6時30分以降にスウェーデンの首都・ストックホルムで発表されます。
関連報道例:
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210925/k10013276041000.html
朝日新聞2021年9月24日、朝刊14面で「飾り」まとって mRNAワクチン 炎症起こす
センサーだます技術で実用化と言う見出しでカリコ氏らが2005年に発表した技術を利用して
約11ヶ月でファイザー社とビオンテックはワクチンの実用化にこぎつけた。カリコ氏の
技術を簡潔に判り易く解説された記事です。
同じ内容で下記サイトで解説されています。
mRNAワクチン成功の裏にあった発見とは ノーベル賞有力の声も:朝日新聞デジタル (asahi.com)
m-RNAとは
m-RNAワクチンの働き
カリコ氏らの成果
メッセンジャーRNAワクチンの英語表示はModified m-RNA Vaccineですが
この飾りのことをModifiedと表現しています。
ここでカリコ氏が歩んだ道を簡単に記しておきます。
ハンガリー出身の科学者、カタリン・カリコ博士は、大学卒業後アメリカに渡り、
遺伝物質の1つ「mRNA」の研究を行いました。しかし、研究成果はなかなか評価されず、
助成金の申請を企業に断られたり、所属していた大学で役職が降格になったりするなど、
40年にわたる研究生活は苦難の連続でした。
2005年には、当時同僚だったドリュー・ワイスマン教授と、今回のワクチンの開発に
つながる革新的な研究成果を発表しましたが、これも注目を集めることはなく、その後
大学の研究室を借りる費用も賄えなくなり、2013年にドイツの企業ビオンテックに移りました
遺伝物質「mRNA」は、体内に入れるとすぐに分解されるほか、炎症反応を引き起こして
しまうため、長年、薬などの材料として使うのは難しいと考えられていました。
しかし、カリコ博士らはmRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を「修飾ウリジン
(pseudouridine)」に置き換えると炎症反応が抑えられることを発見。
RNA修飾とタンパク産生について、ウリジンをシュードウリジンに変更すればタンパク質を
多く産生することができ、更に、1メチルシュードウリジンに変更すれば、元のRNAの
数十倍ものタンパク質を作り出すことができる。このことは、少量のRNAでもタンパク質を
効率よく細胞に作らせることが可能になったことを意味する。
ファイザー社/ビオンテックのワクチン (BNT162b2: Tozinameran)の場合、ウラシルは
全て1メチルシュードウリジンに置換されています。
この技術を用いて2020年、新型コロナウイルスのワクチンが開発されました。
The Story Behind mRNA Vaccines: Katalin Karikó and Drew Weissman
関連サイト:
カタリン・カリコ×山中伸弥 【前編】ワクチン開発につながった強い思いと苦難の研究生活 - 記事 | NHK ハートネット
ここで、話題を変えて2021年10月1日(金)のAm0:10、NHK BS1で放送された
BS世界のドキュメンター「新型コロナワクチン 開発競争の舞台裏」(前編)
VACCINE THE INSIDE STORY EPISODE1(イギリスBBC 2021)(出典1)からm-RNAワクチン
の開発競争に関する内容をピックアップしていきます。
2019年末に中国・武漢で初めて発生が確認された新型コロナウイルス。2020年の1月10日
には中国北京、中国疾病予防センター主任の高福博士(下の写真(出典1))などが
中心となりコロナウイルスの完全ゲノム配列が公表
されました。解析は数日間で終了。
ここから世界各国の研究機関はさまざまなアプローチでワクチン開発をスタートさせます。
ワクチンの種類と特徴について代表的な例を紹介します。
上の写真はワクチンの種類と開発機関
出所:神戸新聞2020-5-17
上の写真はワクチンの種類と特徴 出所:日経新聞 2021-1-1
ファイザー社とモデルナ社のワクチン(m-RNA)
2020年3月16日、米国国立アレルギー感染症研究センター(NIH)とモデルナ社が
m-RNAワクチンで第Ⅰ相の臨床検査に1番乗りでスタートをきります。(出典1)
続いてオックスフォード大学/アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチン、
ビオンテック/ファイザー社のm-RNAワクチンが続きます。
上の2枚の写真は開発者トップのファイザ社のキャサリン・ジャンセン(650人の研究者)
とビオンテック社CEOのウーグル・ザヒン(出典1)
ワクチン開発で先行したモデルナ社に対して猛追したファイザー社が追い抜き2020年12月には
世界で初めてファイザー製ワクチンの接種がイギリスで始まった。通常10年程度かかると
言われるワクチン開発をなんと1年未満で成し遂げたのである。
アストラゼネカのワクチン
上の写真はアストラゼネカのワクチンに関する情報 ウイルスベクターワクチン
上の写真はワクチンの種類に関するもの アストラゼネカのものは4番に当たります。
ファイザー社とモデルナ社のワクチンは3番
3つのワクチン比較表
現在、厚生省に認可済のファイザー社ワクチンと認可申請中のアストラゼネカとモデルナ
のワクチンを比較した表です(下の写真)
参照サイト:
Researchers who developed the mRNA technology behind Covid vaccines win "America's Nobel" - CNN
最後に国産ワクチンの開発状況の資料を添付して筆を置きます。
国のワクチン生産体制等緊急整備事業に採択されているのは塩野義製薬、アンジェス(以上大阪)、第一三共、VLPセラピューティクス・ジャパン(以上東京)、KMバイオロジクス(熊本)の5社(8月18日現在)
関連サイト:
【更新】国産コロナワクチン、開発状況は? 塩野義にKMバイオ…実用化に期待高まる | 河北新報オンラインニュース / ONLINE NEWS (kahoku.news)